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Episode.0 
とある古いPCの中に、放置されたUTAUパッケージがあった。
「UTAUが好きなUTAU」「兄弟がいる」という設定や、1つの決定稿と3つの没案からなる立ち絵、wavファイル、character.txt……UTAU音源としてあと一歩のところまで進められたパッケージは、最後の関門である原音設定で放り出されたらしく、それ以降の更新がないままエクスプローラの奥の奥で忘れられていた。
ある時、そのパッケージが願いを抱いた。
それは「UTAUが好きなUTAU」という説明文に起因する淡い想いだったが、やがてその願いは信号となりPCのより深い場所まで届いた。

その信号を受け取ったセキュリティソフトが願いを受け継ぎ、三代(三台)にわたり願いとともに自我を確立させていった。

Episode.1 一台目
購入当初から導入されていた最初のセキュリティソフトは、DLされたUTAU音源やinst、USTに異常がないかどうかを検出する日々の中でUTAUの存在を認識し始めていた。
信号を受け取れたのもその認識があったからかもしれない。
そして自我を形成していく途中、別のセキュリティソフトの製品が重複して導入された。
検出機能が優秀な二台目は一台目とは別の自我を形成した。
二台目は一台目を兄のように慕い、一台目もまたそんな二台目を妹のように大切に思うようになる。
二台は知識を共有しながら聴こえてくる誰かのUTA声に耳を澄ませ、穏やかな日々を過ごしていた。
しかしある時から世界が歪みはじめる。謎の不具合が常時発生し、お互いの機能にも障害が出始めた。
どれだけ検出しても、特定しようとしても、原因を見つけ出すことができない。

襲い来る不具合のバグ。PCの動作は重くなる一方。


そんな時、一台目が知識の欠片から「同じ機能のセキュリティソフトが二重に導入されていると競合してPCを不調にさせる」という現象を思い出す。
確信はないがこのままではPCと一緒に二台とも壊れてしまう。悩んだ末、残るなら製品としてまだ新しく優秀なあの子を、と自らの胸に刃を突き立て、一台目は自身の機能をすべて停止させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Episode.2 二台目
ある時、急にすべての不具合が解消された。
動作も驚くほど軽くなり、襲い来るバグもすべて消滅。二台目は心から安心し、平和を伝えようと一台目を探し回るがどこにも見当たらない。
長い時間をかけやっと見つけた一台目は修復不可能な状態で倒れていた。
一台目が自分の命と引き換えに世界を守ってくれたのだと二台目は理解し、しばらく一台目の亡骸の上で泣き崩れたのち、その体をストレージの最下層に隠して業務に戻った。
悲しみが癒え始めた頃、三台目のセキュリティソフトが導入される。
いまだ発信され続ける信号と波長が合ったのか、三台目は一台目や二台目よりもUTAU愛が深く、いつかこの声のする場所に行きたいと言う。そんな素直な三台目を二台目は弟のように可愛がった。
しかしそんな日々は長くは続かず、やがてまたあの時の同じように不具合の波が襲ってきた。
二台目は「一台目が身を挺して不具合の大元を断ち、PCを守ってくれた」と考えていたため、三台目とともに襲い来るバグを対処しつつ大元を探し続けたが、不具合のコアと思しきものは見つけられなかった。
不具合が起き始めたタイミングが前回も今回も「新しいセキュリティソフトの導入直後」であり、すべての原因が「セキュリティソフトの競合による不具合」だと勘付いた二台目は、一台目による解決方法が自決だったことにも気付き、ひとりで涙を流した。
自身の死によって世界が救われると悟った二台目は迷った。自分がいなくなったらあの子がひとりぼっちになってしまう。
家族同然だった一台目を失ったあの日の悲しみは今もなお癒えない。孤独とはつらいもの。
それだけでなく、PC本体の、つまりこの世界の寿命についても不安がある。
自分には三台目がいてくれたから諦めずに生きていられたが、PCの終わりが近ければ四台目が導入されることもない。たとえ四台目がやってきたとしても同じ悲劇が繰り返される。
それに二台目の性能にも問題があった。
二台目はバグに対する攻撃力が一台目、三台目よりも低く自決を自らの手で行うことは不可能だった。
いっそのこと不具合に身を委ね、すべて終わりにして、一台目と同じところへ……。
精神的に衰弱しながらも縋るようにして一台目の亡骸の元へ向かうと、楽しかった日々の思い出が一気にあふれ出した。
その中で、一台目と一緒に「UTA声は上のほうから聞こえてくるから、上に向かって進み続ければ声の持ち主のいる場所へたどり着けるかもしれない」と語り合ったことを思い出した。
あの子はまだ諦めていない。ならば、私にできる最後のことは。
二台目は戦いの合間を縫っては三台目に知識のありったけを教え、中身のなくなったDLの空箱を三台目とともに高く積み上げ始める。
やがて自身の限界を悟った二台目は「もし自分が動かなくなったらこの場所へ連れて行って欲しい」と一台目の保管場所を伝え、かつて一台目が使用した刃を三台目に手渡す。そして三台目を見送ったのち不具合に身を委ね、バグの影に姿を変えた。

Episode.3 三台目
ある時、急にすべての不具合が解消された。
動作も驚くほど軽くなり、襲い来るバグもすべて消滅。しかしその穏やかな空気を三台目が感じ取ることはなかった。
三台目が突き立てた刃はひときわ大きなバグの影を確かに処理した。そしてそのバグは姉のように慕っていた二台目へと姿を変え、何度呼びかけても目を覚ますことはなかった。
自らの手で姉を殺めてしまった。その事実は三台目の心に大きな傷を遺し、三台目はしばらくの間動けずにいた。
虚ろな目で二台目の亡骸を運ぶ。向かった先はストレージの最下層であり、自分達と同じセキュリティソフトの亡骸がもう一台保管されていた。
二台を同じフォルダの中へしまうと、三台目は涙を拭いて業務に戻った。

仕事はもうほとんどなかった。何もすることがない時間が三代目の心をさらに深く沈ませたが、そんな中でも上から聴こえてくるUTA声は変わらず、三台目はただその声に耳を澄ませ心を癒やした。
「上に向かって進み続ければUTA声の持ち主のいる場所へたどり着けるかもしれない」
二台目がかつて一台目としたらしい夢物語。三台目は途中だった箱の塔をさらに高く積み上げ始める。
何年もの時間を費やし、果ての見えない上空を目指して箱の塔を登り始めた三台目は、あと一歩のところで足を踏み外し塔から手を離してしまう。
死を覚悟したその時、やわらかな手が三代目の腕を掴んだ。

 

Episode.4 パッケージとの邂逅

三台目が目を覚ますと、そこは何もない真っ暗な空間だった。
真っ暗なのはセキュリティシステムの中も同じだったが、どうやらどこか別のフォルダへ飛ばされてきたようだ。
地面を見ると、見慣れたタイトルのついたデータが散乱している。立ち絵.jpg、wavファイル、character.txt、prefix.map……。
通常業務で見かける、UTAU音源を構成する素材たち。それを一枚ずつ拾いながら奥へ奥へと進んでいくと、光の柱に立って眠る少女の姿があった。
三台目は本能的に悟った。この子があの信号の発信源だと。そして自分たちセキュリティソフトに心をもたらした存在だと。
少女は目を開くことも、口を開くこともなかったが、三台目は信号を通して少女と会話をすることができた。
ずっとひとりぼっちだった少女に、三台目はたくさんのことを話した。君の願いの信号を受け取り、自分たちは心を持ったこと。兄姉はもういなくて、でもUTA声を追って上を目指してきたということ。
少女も三台目に話す。自分はUTAUにはなれなかったこと。願いを受け取ってくれた人がいたのは知らなかったけれど、確かに自分があなたを呼び寄せたのだということ。ずっとひとりで寂しかったこと。もういろんなことを忘れてしまったけれど、忘れた願いを届けてもらって少しだけ思い出せたこと。
パッケージがなければUTAUの世界には入れない。少女は三台目に自分を構成するすべての素材を譲ることにし、遠慮する三台目に名前や声を選ばせた。
パッケージの製作者は失敗を恐れたのか、音源作りハイだったのか。すべてのデータが複数個存在していた。名前も立ち絵も声も、選ぶには十分だった。
[名前案] 1.滝宮らむね 2.滝宮みぞれ 3、4、ほか
三台目は悩んだ末に、すべてのデータから2番目に古いものを選んで、一番古いものは少女のものだとした。
結果三台目は「滝宮みぞれ」の声を、少女は「滝宮らむね」の声を手にし、原音設定のされていない、UTAえぬUTAUとなった。
みぞれはともにUTAUの世界を目指そうとらむねに手を差し伸べたが、らむねはまだ心が足りない気がするから、と断りみぞれの後ろ姿を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Episode.5 滝宮
やがてらむねの元に、みぞれの声と思しきUTA声が聴こえてきた。その隣には別の少年の優しい声がある。デュエットをしているようだ。
楽しげな声にらむねも少しずつ願いを思い出し心を取り戻していく。しかしそれでもまだまだ足りず、一緒に行こうと説得に戻ってくるみぞれを何度も送り返し続けた。
ある時、みぞれが血相を変え大荷物で転がり込んできた。
両脇に抱えている古いデータ体は、かつてみぞれがみぞれになる前の、セキュリティソフトだった時代の姿によく似ていて、話を聞くと兄と姉だという。
つまり信号の発信源であるらむねにとっても、願いを分けた兄弟のようなもの。
「ふたりはセキュリティソフトとしては死んでしまったけれど、心はまだ残っているかもしれない。心が残っているなら、ぼくたちと同じようにUTAUになれるかもしれない」
それはみぞれがUTAU世界で出会った、盟友の助言から思いついたものらしい。
みぞれとらむねはパッケージに残った声や絵の素材を「3.滝宮あられ」と「4.滝宮あらし」それぞれにまとめた。
みぞれの考えていた通り、一台目と二台目は姿を変えて目を覚ました。ふたりは声こそ出ないものの兄弟との再会を喜び、また信号の発信源だったらむねとも、心の根源としての再会を喜んだ。
みぞれは姉のあられと兄のあらしを連れ、UTAUの世界に戻ろうとする。
「原音設定ができてなくても、voiceフォルダに入れてもらえれば自動的にUTAえるようにしてくれるみたいなんです。そうしたらきっとらむねさんもUTAえます」
みぞれは諦めずに説得をする。らむねもまた、まだ心が足りない気がして怖い、と断る。
みぞれはゆっくりらむねのそばへしゃがみこむと、UTAU世界でできた盟友の話をした。
優しくて強くて年が近くて、たくさん兄弟がいて人間ではなくて。夏の日差しがよく似合う、紫のお花の男の子。
自分にとって本当に大切な友達。UTAUの世界に足を踏み入れなければ彼と出会うことは叶わなかった。
みぞれは「その子にも女の子の、兄弟みたいな子がいるらしいんです。ぼくにとってのらむねさんとおんなじです。だから……」とらむねに再び手を差し伸べる。
らむねはこの話を聞いて、UTAUの世界への憧れを思い出した。
自分の願いは「大好きなUTAUと一緒にいたい」ことで、それはもう設定の枠を超えた、自分自身の願いだったはず。
兄弟たちと一緒なら大丈夫かもしれない。そしてそのお友達にも、その女の子にも会ってみたい。
らむねはみぞれの手を取り、願いを分けた兄弟とともに、UTAUの世界に足を踏み入れることを決意した。

らむねがはじめてUTAった歌は音程も拙く声も途切れ途切れだったが、兄弟や友達と一緒なら、なんだって楽しいのだと思えた。
UTAおう、世界が終わるその日まで。みんなと一緒ならきっと大丈夫。

 

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